東 學 墨画集『天妖』制作日

墨の女の息吹くまで

ある絵師と、涙もろいプロフェッショナルたちの本造りBLOG

07年5月、パルコ出版より初リリース!!

活版印刷の匂い、味わい。

昨年だったか、天王寺の古道具市でその昔活版印刷屋さんが使っていたのだという、小さな箱をみつけてきゅんと心がときめいて、「縦組 あ い」 「横組 あ い」・・・などとラベルをつけられたそれをいくつも集めてもってかえった覚えがある。「ねえ、みてみて、この箱。昔の活字が入っていたんだってさ。縦組のあい、とかさ、横組のあい、とかさ・・・なんだかそれだけでもドキドキせ~へん? この箱のなかに入っていた、あ、い、う、え、お・・・それぞれの文字はさあ、どんな言葉を綴っていたんやろねえ。愛してるのあい、かもしれないし。逢いたいのあい、かもしれないし、愛してました、っていう別れの一文かもしれない。まだ言葉になってない文字のカケラみたいなものが、意図せずして、ここに詰まっていて、誰かの手によって言葉として生まれていったんやねえ、きっと」・・・と、友達をつかまえてひとり盛り上がっていた覚えがある。それぐらい私の世代でさえすでに活版印刷を知らない。
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「天妖」はすべての文字を、この活版印刷で行う。活版には、どうしてもデジタルの文字ではだせない味があるのだ。深みがあるのだ。どうしても譲れない滲みや匂いが、この文字にはあるのだ。パルコの藤本さんが、東京でも残っているのはもうごくわずかになってきたんだ、という活版印刷屋さんにぜひ行きましょうといってくださって、私と東は、藤本さんと渋谷で待ち合わせ、タクシーにのって「東京都板橋区」にある「内外文字印刷株式会社」さんにうかがった。私が天王寺さんで買いあさっていた小さな箱が、ここでは立派に現役でびっしり並べられて、小さな活字がきれいに仕分けされて並べられている。文字の図書館のような雰囲気。職人さんたちは、どの大きさの文字が、どこに並んであるのか、当然ながら把握している。面白かったのは、ひとつひとつの活字が、90度横に寝転がって並んでいたこと。その方が、活字ひろいがしやすいんだって。二代目社長の小林さんが人懐っこい笑顔でいろんな説明をしてくださる。工場のなかでは職人さんが活字を並べたり、活字そのものをつくっていたり、大きな印刷機を動かしていたり・・・職人さんたちは一様に無口で、こつこつと自分の作業にいそしんでいる。活字を組み立てる職人さんの机には小説か、何かの校正原稿が置かれていたりして、赤ペンで、「トルツメ」とか「抜け」とか、かきこまれてある。その原稿にもとづいて、職人さんが、活字をピンセットではずしたり、他の文字を入れ込んだりしている。ものすごい細かい作業だが、ものすごく手早い。文字校正をする立場である方の私からすれば、うわあ、こんなに大変な作業をしてくださっているのね・・・恐縮でございます、文字ミスがないよう気をひきしめます・・・という気持ちになる。こういうのをみると、文字の重みがやっぱり違う。一文字一文字のぬくもりが違うように思える。文章をつくって、印刷工程に入るまでに、大きな決断があったとやっぱり思うのだ。とりあえず入稿しちゃって、あとで直そうよ・・・みたいなことが今よりも少なくとも少なかったのではないかと思うのです。もちろん、それでも容赦なく赤ペンを入れて、原稿を練り上げていた人もいるとおもうのだけどね。ていねいに、ていねいに・・・そんなことを新年の志として思う2007年にこのような本作りの裏側に立ち会えることをしあわせに思う。

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2007年01月19日 01:16  |  
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東 學 近影

【PROFILE】

東 學 gaku azuma

株式会社 一八八 所属
絵師・アートディレクター
1963年、京都生まれ。
父は扇絵師である東笙蒼。幼い頃から絵筆に親しむ。 アメリカのハイスクール時代に描いた『フランス人形』はニューヨークのメトロポリタン美術館に永久保存されている。 20才でグラフィックデザイナー・アートディレクターとしての頭角を現し、主に舞台やテレビ、音楽関係などのグラフィックワークを手がける。 97年、世界的に活躍する劇作家・松本雄吉にアートワークを認められ「維新派」の宣伝美術に就任。 毎日放送ハイビジョン番組『ポートレート』の映像ディレクションにて、(財)日本産業デザイン振興会主催のグッドデザイン賞・特別賞を受賞。 03年、森田恭通氏プロデュースのニューヨーク高級ジャパニーズレストラン“MEGU”にて装飾絵画(墨絵を中心にした浮世絵シリーズ)を製作。 また、06年“MEGU”の2号店(トランプタワー店)でも装飾絵図を手がけた。 04年『ジャパンアヴァンギャルド~アングラ演劇傑作ポスター100』(PARCO出版)の装丁、 05年『林静一 傑作画集 少女編 淋しかったからくちづけしたの』(PARCO出版)の装丁。 同年、画家・鉄秀とのコラボレーションによる大型作品『麒舞羅』が大阪市長賞に輝く。 アート・ディレクターとしての活躍のみならず、絵師としての活動も各界から注目されている。

※上記内容をWikipediaに投稿しました。